「やりぬく力」 を、 子どもの性格や根性として捉える見方は、 今も根強く残っています。 ミエタネは別の記事 やりぬく力とは で、 この力を性格ではなく、 観察と環境の組み合わせとして捉え直してきました。 この記事では、 同じ問いを神経科学がどう扱っているかを紹介します。
「やりぬく」 は実行機能の組み合わせとして捉えられる
神経科学や発達心理学では、 「やりぬく力」 に近い概念として 実行機能 ( Executive Function ) という言葉が使われます。 実行機能は、 大きく以下の 3 つの要素から構成されると整理されています。
- 抑制 ・ 衝動的な反応を止めて、 必要な行動を選ぶ
- 切り替え ・ 状況に応じて、 思考や行動を柔軟に変える
- ワーキングメモリ ・ 情報を一時的に保持しながら処理する
つまり、 子どもが何かを最後までやり通すには、 単に「我慢する」 だけでなく、 状況を読み、 必要に応じて切り替え、 過去の情報を頭の中で保持する複数の動きが連動する必要があります。 これは大人にとっても日常的に難しい仕事です。
脳ネットワークから捉え直す実行機能
近年は、 脳の特定の部位だけでなく、 複数の領域がつながったネットワークとして実行機能を捉える研究が進んでいます。 以下の論文は、 脳のネットワーク構造の柔軟さが、 思春期の若者の実行機能とどう関係するかを統計的に調べたものです。
研究の細部には専門用語が多くありますが、 大きな含意としては「実行機能は単一の能力ではなく、 脳の複数の場所がうまく連携できる『柔軟さ』 として観察できる」 ことが示されています。
この視点に立つと、 子どもの「集中が続かない」 「飽きっぽい」 と見える瞬間は、 脳のネットワークがまだ柔軟に切り替わる練習を重ねている途中、 と捉え直すことができます。 性格の評価ではなく、 発達のプロセスとして読むことができるわけです。
「やりぬける環境」 は研究的にも支持されている
実行機能の発達には、 子ども本人の脳の成熟と、 環境からの足場かけ ( scaffolding ) の両方が関係することが、 多くの研究で確認されています。 足場かけとは、 子どもがいま自分一人ではできないことを、 大人が少し補助することで達成できるようにする関わりのことです。
研究が示してきたのは、 大人が答えを先回りして与えるよりも、 子どもがつまずきそうな瞬間に「次にやることをひとつだけ思い出す手伝い」 をする方が、 実行機能の発達に資するという方向性です。 ミエタネが「最終形を急がない」 関わりを推奨する根拠の一部は、 ここにもあります。
神経科学の言葉を、 現場で使いすぎないために
研究知見を子育てや教育の現場に持ち込むとき、 注意したいのは「脳がこうだから」 という言い方を多用しないことです。 神経科学の知見はあくまで集団レベルの平均的な傾向であり、 目の前の一人の子に直接当てはまるとは限りません。
研究の言葉は、 大人が観察するときの新しい補助線として使うのが、 もっとも誠実な使い方です。 「この子は実行機能が低い」 という診断的な使い方ではなく、 「いまこの子は、 脳のネットワークを練習している途中かもしれない」 という視点の補助として使う。 その距離感が、 子どもをラベルから守ります。
まとめ
やりぬく力は、 子どもの中にだけ宿る性格的な美徳ではなく、 脳の柔軟なネットワークと、 周囲の関わりが組み合わさって表れる現象です。 神経科学の研究は、 この力が「育つ」 ものであることを、 統計的な裏付けとともに示し続けています。
大人ができるのは、 「もっと頑張りなさい」 と性格に働きかけることよりも、 続けやすい環境を整えること、 つまずきの直前にそっと足場を渡すことです。 研究の言葉は、 そのときに頼れる小さな補助線として使えます。