やりぬく力 ・ 力を理解する
「やりぬく力」は根性ではない。失敗したあとに戻ってくる力
子どもが習い事の途中で「もうやめたい」 と言う。難しい宿題を投げ出す。試合に負けたあと「もう行きたくない」 と言う。練習でうまくいかず泣く。工作やパズルを途中で放り出す。
こうした場面に出会うたびに、大人はつい考えてしまいます。「根性がないのか」「途中で投げ出す癖がついてしまったのか」「我慢する力が足りないのか」。
ミエタネメディアの別の記事「整える力とは」 では、感情の波と付き合う力について触れました。この記事では、その隣にある力、つまり「やりぬく力」 について見ていきます。
こんな場面、ありませんか
新しいパズルが難しくて、5分も経たないうちに「もうやだ」 と投げ出す。サッカーの練習でうまくシュートが入らず、「もうやめる」 と言ってベンチに座る。リコーダーの練習で何度もつまずき、「向いてない」 とつぶやく。試合に負けたあと、不機嫌になって誰とも話さない。
家庭でも、習い事でも、学校でも、こうした場面は珍しくありません。子どもが「やめたい」 と口にしたとき、大人は二つの方向で迷います。一つは、すぐに辞めさせていいのか。もう一つは、「ここで諦めさせたら一生続かなくなるのではないか」 という不安です。
ただ、その「やめたい」 は、本当に永遠の終わりを意味しているのでしょうか。
多くの場合、子どもの「やめたい」 は、その瞬間の感情です。難しすぎる、疲れた、恥ずかしい、認められたい、助けてほしい、今は休みたい。さまざまな意味が、一つの言葉に込められています。
NCSでは「やりぬく力」と呼ぶ
NCSでは、子どもの力を「できる」「つながる」「たのしむ」 の3つのカテゴリで整理しています。やりぬく力は、整える力と並んで「できる力」 の一つに位置づけられます。
やりぬく力とは、困難や失敗があっても、自分なりに立て直し、また取り組もうとする力です。
教育心理学の領域では、Grit ( やり抜く力 ) や Resilience ( 立ち直る力 ) という概念と関係があるとされています。粘り強さ、忍耐力、目標へのコミットメント、努力の継続。こうした言葉でも語られます。
ただ、ミエタネメディアでは、これを「ただ我慢する力」 として捉えません。むしろ、もう少しやわらかい捉え方をします。
やりぬく力は、歯を食いしばって最後まで止まらず走り続ける力だけではありません。一度離れても、休んでも、また戻ってこられる力です。
よくある誤解 ─ やりぬく力は「弱音を吐かないこと」ではない
やりぬく力について、もっとも起こりやすい誤解は「弱音を吐かない力」 だと思ってしまうことです。
実際には、弱音を吐くことも、休むことも、離れることもあります。むしろ、それらを経験できる子の方が、長く取り組み続けられることもあります。
大切なのは、その場で完全に終わるのではなく、再び向き合えるかどうかです。
たとえば、難しいパズルを投げ出した子が、しばらく別の遊びをしたあとに、また同じパズルに戻ってくる。試合に負けて落ち込んだあと、次の練習にはやっぱり出てくる。「もうやめる」 と言ったあと、翌日には何事もなかったかのように再開する。
これらはすべて、やりぬく力が育っているサインです。
逆に、一度も弱音を吐かずにずっと続けている子が、ある日突然「もう絶対やらない」 と完全に手放してしまうこともあります。途中で休む経験、戻ってくる経験を持たないと、限界が来たときに完全に折れてしまうことがあります。
やりぬく力は、強さではなく、しなやかさに近い力です。
なぜその行動が起きるのか
「やめたい」 という言葉の奥には、いろいろな意味が隠れています。
- 難しすぎる
- 疲れた
- 恥ずかしい
- 周りに認められたい
- 助けてほしい
- 今は気分が乗らない
- 本当に合っていない
- 大人の期待が重い
これらは別々の状態です。「難しすぎる」 のであれば、課題のレベルを下げる工夫が必要です。「疲れた」 のであれば、休む時間が必要です。「恥ずかしい」 のであれば、安心できる環境が必要です。「本当に合っていない」 のであれば、別の選択肢を考える必要があるかもしれません。
大人がやってしまいがちなのは、これらすべてを「根性がない」 という一言で括ってしまうことです。括ってしまうと、子どもの実際のニーズが見えなくなり、関わり方が一律になってしまいます。
子どもの中で何が起きているのかを少し具体的に分けて考えるだけで、関わり方の選択肢が広がります。
大人が見つけたいサイン
やりぬく力を見るとき、大人が注目したいのは、子どもが最後まで止まらずやり切ったかどうかだけではありません。
- 難しい課題にどのくらい向き合おうとしたか
- 失敗したあと、どう反応するか
- 助けを求められるか
- 少し休んだあと、戻ってこられるか
- やり方を変えようとするか
- 「悔しい」「難しい」 と気持ちを言葉にできるか
少し休んでも戻ってこられる、自分なりにやり方を変えてみる、助けを求められる。これらはすべて、やりぬく力が育っているサインです。
特に、「自分なりにやり方を変えてみる」 ことは、大人にとって見落とされやすいポイントです。同じやり方を頑張り続けることだけが「やりぬく」 ではありません。うまくいかない方法から、少し違う方法へと切り替えられること自体が、大切な力です。
成長のステップ
やりぬく力は、段階的に育っていきます。
まずは、難しさに気づくこと。「これは難しい」「うまくいかない」 と感じる経験そのものが入口になります。
次に、その気持ちを表現できること。「嫌だ」「悔しい」「やめたい」 と言葉にできることは、弱さではなく、自分の状態に気づけている証です。
その次に、大人の支えで再挑戦できる段階があります。「もう一回やってみる?」「一緒にやろうか」 と支えがあれば、もう一度向き合える。これが繰り返されることで、やがて自分から再挑戦できるようになります。
そして、自分で工夫して取り組む段階。やり方を変える、別の角度から試す、誰かに助けを求める。一つの方法に固執せず、いくつかの選択肢を試せるようになります。
最後に、失敗を次に活かせるようになる段階。「前はここで止まったから、今回はこうしてみよう」 と、過去の経験を次の挑戦に持ち込めるようになります。
これらの段階は、子どもによってペースが違います。一度クリアした段階に戻ることもあります。それでも、長い目で見ると、確実に育っていきます。
まとめ
やりぬく力は、歯を食いしばる力だけではありません。
一度離れても、休んでも、また戻ってこられる力。やり方を変えながら、もう一度向き合える力。それが本当の意味での「やりぬく力」 です。
子どもが「もうやめたい」 と言ったとき、大人が完全に終わらせる前にできることがあります。何が難しいのかを一緒に分けて考える。少し休む選択肢を出す。小さく再挑戦できる形にする。そして、戻ってきたことを認める。
子どもが安心して弱音を吐ける関係があるからこそ、また戻ってくる力が育ちます。
困った行動に見える「途中で投げ出す姿」 の奥に、「次に戻ってくる準備をしている姿」 を見つけられるようになると、大人の関わり方は少しずつ変わっていきます。
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